便秘の新しい薬のお話

GWは終わりましたが、緊急事態宣言が延長されました。ステイホームの生活も長くなり、運動不足になりがちですね。心身ともにさまざまな不調をもたらす運動不足ですが、この自粛生活で便秘になったという人も多いのではないでしょうか。「快食・快眠・快便」が健康の3大要素といわれるくらい排便は大切なことです。

 

「たかが便秘・・・」は危険

便秘になると肌荒れを実感している人も多いと思いますが、お腹が張る、胸やけがするなどの症状で、大したことはないから・・・と便秘を甘くみていると更に苦しい状況になります。大腸の中で溜まっている便の水分が失われますます硬くなって痔になったり、大腸の潰瘍ができたり、腹膜炎になることもあります。また、硬くなった便を排出しようと強くいきむことで脳溢血や心筋梗塞などの血管性の病気を引き起こすこともあります。自宅トイレでの心臓発作で亡くなったとされているあのエルビス・プレスリー死。真偽は定かではないですが長年苦しんでいた便秘が引き金になったという説が浮上し「エルビス・プレスリーの死因は便秘だった」と報じた米国の新聞もあったようです。

 

便秘の原因

便秘は大腸や直腸の働きの異常による「機能性便秘」と、腸管の疾病による「器質性便秘」の大きく2つに分けられます。さらに機能性便秘は、弛緩性便秘・痙攣性便秘・直腸性便秘の3つに分けられますが、日本人の常習性便秘の約2/3は弛緩性便秘といわれています。

 

機能性便秘

  • 弛緩性便秘・・・大腸を動かす筋肉が緩むことによって便秘になるので高齢者や運動不足の人に多い。
  • 痙攣性便秘・・・ストレスや疲労などにより大腸の運動に連続性がなくなって便を運ぶのに時間がかかる。
  • 直腸性便秘・・・便意を習慣的に我慢することで直腸に便が入っても便意が感じにくくなり排出に至らない。
  • 器質性便秘は腸管の疾患によるものであり、疾患の根本的治療が必要になる


便秘の新しい薬

近年、便秘の治療は新薬の登場により変わりつつあります。長らく便秘のお薬として主に2種類(浸透圧性下剤の酸化マグネシウム・刺激性下剤のセンナなど)が使われていました。江戸時代からほぼ進化のなかった便秘薬でしたが、2012年、新しい便秘症治療薬としてルビプロストン(商品名アミティーザ)が発売され、2017年、2018年にはリナクロチド(商品名リンゼス)、エロビキシバット(商品名グーフィス)など他にも新薬が続々と承認され処方できるようになりました。

従来からよく処方されていた刺激性下剤のセンナなどは効果が早く出現し、排便後非常にすっきりするということで根強い人気があります。しかし長期に使用していると効果が薄れ『依存』と『耐性』をもたらすという欠点があります。大腸を刺激することで排便を促すため長年の使用により大腸が刺激に慣れてしまい効果が弱くなるのです。

ルビプロストンとリナクロチドは従来の酸化マグネシウムと同様、便を柔らかくする薬ですが、主に大腸に働く酸化マグネシウムと異なり、小腸での水分分泌を促進することで便秘を解消するという全く新しい種類の上皮機能変容薬です。エロビキシバットはなめらかな便を作るための胆汁酸を大腸に届くようにして便秘を改善するというこちらも新しい種類の胆汁酸トランスポーター阻害薬です。新薬は臨床試験に基づいた科学的根拠のレベルが高いので効果も期待できると言えるでしょう。

 

便秘の改善

便秘改善の基本は、一般的によく知られている通り、食物繊維を摂ることも含め規則正しい食事と、定期的にトイレに行く習慣、充分な水分摂取と適度な運動などの生活習慣の見直しです。そして、たかが便秘と甘くみて放置しないこと。癌などの怖い病気が隠れている場合もありますから。また、安易に市販薬を使用するのもおススメはしません。習慣性や依存性があり長期間使用すると返って便秘を悪化させることもあるからです。一口に便秘といっても、原因も病態もさまざまで薬もたくさんの種類があります。大切なのは新薬に限らず既往歴、原因や症状、にあわせて薬を使っていくこと。「たかが便秘」と思わずに医療機関に相談しましょう。

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