秋の夜長にしっかり眠れていますか?

過ごしやすい季節となりました。秋の夜長に、読書や音楽など趣味の時間を楽しみ、ついつい夜更かししてしまうことも多いかもしれません。「秋の夜長」とは、秋が深まるにつれて日が短くなり、夜が長くなることをいいます。そうすると「メラトニン」という睡眠ホルモンが出やすくなるという人間に本来備わっている力も加わるので、単に過ごしやすいというだけでなく一年で最も睡眠に適した季節とも言えます。夏は寝苦しいから眠れないのは当たり前と思っていた方、過ごしやすい季節になってもなかなか寝付けない方、夜中に何度も目が覚めてしまう方、この最適な季節に眠れないあなたは、もしかすると「不眠」かもしれません。

 

不眠症ってどんなこと?

不眠ってどういうことでしょう。誰しも、寝たいと思っていてもなかなか眠れない経験はあるかもしれませんね。また、就寝してから起床までの時間が長いから大丈夫というわけでもありません。不眠症とは、単に睡眠時間の長さで診断するものではなく、下記のような睡眠問題が1ヶ月以上続き、日中に倦怠感・意欲低下・集中力低下・食欲低下などの不調を招き、日常生活に支障をきたしている状態をいいます。

・入眠困難: 寝つきが悪い(不眠症の中で最も多いタイプ。不安や緊張が強い時に起こりやすい)
・中途覚醒: 夜中に何度も目が覚める(高齢者に多く夜間頻尿が原因のことも)
・早朝覚醒: 思ったよりも早く目が覚めて、その後眠れない(高齢者に多く、うつ病でも現れる症状)
・熟眠障害: ぐっすり寝た気がしない(いわゆる眠りが浅いという感覚のケース。「睡眠時無呼吸症候群」や「周期性四肢運動障害」など、睡眠中に症状がでる病気が原因のことも)

 

不眠の原因

2021年OECD(経済協力開発機構)が行った調査では、日本人の平均睡眠時間は442分(7.3時間)と加盟国30ヵ国中最下位という結果が出ています。他国と比較して働きすぎや通勤時間の長さ、現代においては携帯電話等のIT機器を長時間使用することも影響していると考えられます。不眠は単に睡眠時間だけで判断するものではありませんが、厚生労働省の調査によると、日本人の5人に1人は不眠に悩まされており、まさに不眠大国と言っても過言ではありません。このコロナ禍で少し時間が取れるようになった方もいるかもしれませんが、2017年の流行語大賞トップ10に「睡眠負債」が入っていたように、必要な睡眠が確保されておらず慢性的な睡眠不足に陥っている人が多いのも事実です。

 

令和3年度 健康実態調査結果の報告

https://www.mhlw.go.jp/content/11131500/000904748.pdf

不眠症の症状は人それぞれで、さまざまな原因があり、「5つのP」に分類されます。

●Physical(身体的原因)=からだの病気
例えば、腰が痛い、皮膚のかゆみ、咳が出て眠れない等、身体の症状によって眠れない。

●Physiological(生理的原因)=環境・生活リズムの乱れ
例えば、騒音が気になる、勤務シフトが変則、暑さ寒さで眠れない等、生活環境や生活リズムによって眠れない。

●Psychologic(心理学的原因)=ストレス
例えば、不安や緊張をもたらす悩み事、心配ごとを抱えている等、ストレスによって眠れなくなる。

●Psychiatric(精神医学的原因)=こころの病気
神経症やうつ病、統合失調症などの精神的な病気は、不眠を伴うことがあります。

●Pharmacologic(薬理学的原因)=薬や刺激物
服用中の薬剤が原因となる不眠。睡眠を妨げる薬としては降圧剤・甲状腺製剤・抗がん剤などが挙げられます。また抗ヒスタミン薬では日中の眠気が出ます。カフェインやニコチンなどの刺激物には覚醒作用があります。アルコールも睡眠導入に効果があるものの中途覚醒や早期覚醒に繋がります。

 

不眠の治療

不眠症の治療は、薬を使わない「非薬物療法」と、薬を用いる「薬物療法」があります。不眠の原因が身体的病気もしくは精神的病気等が原因の場合は、不眠の背後にある病気についての治療が必要ですが、その他については、まずは薬を用いず、不眠の要因となっている生活習慣や睡眠環境を含めた睡眠習慣の改善等による治療=非薬物療法を行います。それでも改善がみられない場合については、非薬物療法を継続しながら、不眠症治療薬を用いて薬物療法を行っていきます。あくまでも、不眠症の治療は、薬の効果でよく眠れる状態にすることがゴールではなく、睡眠環境や生活習慣を整えて、薬に頼らずに十分な睡眠をとれるようになることを目指します。

●非薬物療法

薬を使わない非薬物療法では、主となるのが良い睡眠習慣を身につける睡眠衛生教育です。具体的には、下記に挙げるような生活習慣や睡眠環境を整えることにより、不眠を改善します。その他、普段の睡眠の長さや状態を記録する「睡眠日誌」を用いるなどして、睡眠状態を把握し、睡眠に対する誤った考え方や習慣を修正して適切な睡眠習慣を取り戻す認知行動療法があります。また、高照度光療法といって、高照度光(2500ルクス〜)を一定時間照射し、睡眠時間帯を望ましい時間帯に矯正する光による治療が用いられることもあります。

 

◇良い睡眠習慣のためのポイント

  • 就寝・起床時間を一定にしてリズムを作りましょう。早寝早起きで太陽の光を浴び、体内時計を整える。
  • 規則正しい3度の食事。特に体と心の目覚めになる朝食はしっかり摂りましょう。
  • 適度な運動。激しい運動よりじんわり汗ばむくらいの程よい有酸素運動を定期的に行い、心地よい眠りを引き出しましょう。
  • 睡眠時間にはこだわらない。個人差があるので、無理に眠ろうとしないこと。日中に眠気が残らなければ問題ありません。加齢と共に必要な睡眠時間は短くなります。
  • 就寝前のリラックスタイム。寝る前に40℃くらいのぬるめのお風呂にゆっくりつかる、音楽や読書で心身の緊張をほぐすことで、副交感神経を活発になり睡眠の質が上がります。
  • 就寝前のアルコールと刺激物は控えましょう。寝酒をしない。アルコールを飲むと一時的に寝つきがよくなりますが、深い眠りが減り短時間で覚醒します。また耐性ができやすいので摂取量が増える、長期化すると依存症などの危険もあります。カフェインが含まれるコーヒーや緑茶などは就寝4時間前からは控え、タバコにはニコチンが含まれるので夜は控えましょう。
  • 寝室環境を整える。ベッド・布団・枕・照明などは自分に合ったものを選び、温度や湿度も快適に保ちましょう。
  • 入眠前のスマホは控えましょう。ブルーライトには覚醒効果があります。
  • 昼寝は15時までの20分程度。夕方以降は夜の睡眠に悪影響を及ぼします。

●薬物療法

薬物療法に用いられる薬については、近年新しい治療薬も開発されて選択肢が増えました。
主な不眠症治療薬3つの中でも、それぞれの特徴があるので、症状に合わせて用いることになりますが、ここ数年ではメラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬を使用することが増えてきています。

 

◇ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系

脳の興奮を抑えるGABA(ガンマアミノ酪酸)という神経伝達物質の働きを促すことにより、脳の活動を休ませて睡眠作用をもたらします。
→効果が出やすく、昔から使用されてきたお薬。近年、認知機能低下、依存性、耐性、筋弛緩作用(非ベンゾジアゼピン系には無い)などのデメリットを考慮し、使われる事が少なくなってきていますが、ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系の薬も複数種あり作用時間が違うので、睡眠障害の症状によっては有用性があります。

 

◇メラトニン受容体作動薬

脳内には、体内時計の調節をするメラトニンというホルモンがあります。このメラトニンが作用する部分を刺激することにより、体内時計を整え、睡眠を促します。
→効果がベンゾジアゼピン系にみられる耐性や依存性が少ないのも特徴です。即効性がないので効果が出るのに2週間程度必要。

 

◇オレキシン受容体拮抗薬

脳内には、オレキシンという覚醒を維持する物質があります。脳内でのオレキシンの働きを弱めることにより、睡眠を促します。
→ベンゾジアゼピン系にみられる耐性や依存性も少なく、メラトニン受容体作動薬と違って、ある程度即効性もあります。悪夢をみやすいことと、眠気が残ったりすることがあります。

たかが睡眠、されど睡眠。睡眠は人間生活の基本です。

眠れないことで疲労は溜まり、日中のパフォーマンスに影響がでて生産性が上がらず、余計に疲労が溜まってしまい、こころにもからだにも悪循環が生まれます。たかが睡眠、眠れないくらいで受診するなんて!と頑張りすぎずに、まずはかかりつけ医に相談しましょう。

次回は不眠症に隠れている病気についてお話したいと思います。

 

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