不眠症に隠れている病気

今回は、前回に引き続き不眠症のお話です。眠れない日が続き、生活に支障をきたす状態を不眠症といいますが、不眠症の背後に別の病気が隠れていることがあります。不眠症の原因は大きく分けると5つに分類されますが、からだの病気やこころの病気が原因で不眠を引き起こしている場合には、その病気の治療が先決となります。では、不眠症の背後にある病気とはどんなものがあるのでしょう。

不眠症の原因(英語の頭文字を取って「5つのP」と呼ばれています)

●Physical(身体的原因)=からだの病気

●Physiological(生理的原因)=環境・生活リズムの乱れ

●Psychologic(心理学的原因)=ストレス、不安、心配事

●Psychiatric(精神医学的原因)=こころの病気

●Pharmacologic(薬理学的原因)=薬や刺激物

 

不眠を引き起こす病気

●からだの病気

高血圧や心臓病(胸苦しさ)・呼吸器疾患(咳・発作)・腎臓病・前立腺肥大(頻尿)・糖尿病・関節リウマチ(痛み)・アレルギー疾患(かゆみ)・脳出血や脳梗塞など、さまざまなからだの病気によって不眠が生じます。肥満やメタボリックシンドロームでも、交感神経が働き興奮状態になるため眠りが妨げられます。不眠とそこに隠れている病気は、互いに影響を受けるため深い相互関係にあるといえます。

また、むずむず脚症候群と呼ばれていたレストレスレッグス症候群は、夜になると下肢を中心に「ムズムズする、痛痒い、じっとしていると不快になる」といった異常な感覚が現れてなかなか眠れない、さらに、足が周期的にピクピクと勝手に動き続ける周期性四肢運動障害を起こすことも多く、睡眠が浅くなります。そして近頃多く見られる不眠症の原因として、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が挙げられます。眠っている間に呼吸が止まることで、身体に酸素が入らず眠りが妨げられますが、本人も自覚していない場合が多く、隠れSASは300万人~500万人とも言われています。

●こころの病気

うつ病・不安障害・統合失調症などの精神的疾患の場合、不眠になることが多くみられます。うつ病の初期症状として、睡眠中に何度も目が覚める(中途覚醒)や、起きる予定の時刻より早く目覚めて眠れない(早期覚醒)といった睡眠障害がみられます。

 

睡眠の浅い深いってどういうこと?

そもそも睡眠、眠るとはどういうことでしょう?眠っているからといって脳全体が休んでいるということではありません。眠っている間にも脳の活動は変化していて、レム睡眠とノンレム睡眠という役割の違う二種類の睡眠があり、約90分の周期で一晩に4,5回繰り返されます。

●レム睡眠・・・身体は休んでいますが脳は活動している状態、いわゆる浅い眠りです。夢を見ているのはこの時が多く、眼球が素早く動くことから、英語のRapid Eye Movement頭文字をとってREM(レム)睡眠と呼ばれており、思考の整理や記憶の定着が行われています。精神的なストレスが多いとレム睡眠が増えます。

●ノンレム睡眠・・・REMのないnon-REM、ノンレム睡眠ということですが、脳波活動が低下し脳が休んでいる状態でいわゆる深い眠り。眠りの深さは4段階に分けられますが、1~4段階のうち3・4段階は、起こしてもなかなか目覚めず脳がしっかり休んでいる状態なので質の良い眠りといえるでしょう。この時に見る夢は単純なストーリ―、もしくは覚えていないことが多いといわれています。主に脳の休息、成長ホルモンの分泌、免疫機能が整えられます。肉体的なストレスが多いとノンレム睡眠が増えます。

 

質の良い睡眠を取れていますか?

近年、不眠症の原因として注目されているのが睡眠時無呼吸症候群。英語ではSleep Apnea Syndromeといい、頭文字をとってSASと呼ばれています。睡眠中に呼吸が止まって、身体に酸素が取り入れらないため、防衛的に脳が起きて、呼吸を再開します。きちんと睡眠時間を確保しているのに、なぜかいつも眠い、朝もスッキリ起きられないという人は、本人は眠っているつもりでも無呼吸を繰り返すことで脳も身体も起きてしまい、休まっておらず、しっかり睡眠がとれていないことがあります。医学的には、睡眠時に10秒以上の無呼吸が、1晩で30回以上もしくは1時間うちに5回以上起こるとSASと診断され、睡眠の質が落ちているということになります。

 

命にかかわる睡眠時無呼吸症候群(SAS)

断続的に無呼吸を繰り返す睡眠時無呼吸症候群(SAS )は、当然のごとく身体にさまざまな悪影響を及ぼします。高血圧、心臓病、脳卒中、糖尿病などの生活習慣病を引き起こすことも多く、日中に眠気に襲われて大きな事故につながったケースは、山陽新幹線の居眠り運転や全日空の機長の居眠り、その他トラックやトレーラーなど車の事故も多数ニュースで報じられています。身体にとって大事な睡眠をおろそかにしていると、命にかかわる病気や事故につながってしまいます。

しかし、眠っている間のことなので本人が気づかないことも多いのが実情。SASの症状として「いびき」が挙げられ、いびきをかく人の約7割が睡眠時無呼吸症候群であるという報告もあります。ご家族から「おおきないびきをかいている」「呼吸が止まっている」ことを指摘されて検査、治療を開始する患者さんも多くいらっしゃいます。眠っている間、いびきがうるさい、呼吸が止まっている、急にむせている等、ご家族で思い当たることはないでしょうか。それはSASの代表的な症状であり、不調を知らせるサインかもしれません。簡易検査は自宅で手軽にできるので、まずは医療機関にご相談ください。

 

過去に紹介された記事 

週刊大阪日日新聞 京阪版(2018年6月23日号)

 

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