痔(ぢ)のお話 ②

4月から当院に肛門外来を新設、『高橋秀和先生』が土曜日9:00~12:00(祝日を除く)に診察を行っています。肛門の病気といえばということで、前回は「痔」、その中でも最も多い「いぼ痔」について「痔は、世界中人種を問わず誰にでも起こる身近な病気」だとお話しましたね。今回は切れ痔(裂肛)と痔ろうについてお話していきます。

 

切れ痔(裂肛)とは

切れ痔(裂肛)は、肛門周囲の皮膚(肛門上皮)が切れた状態、裂けてしまった状態を指します。直腸と肛門の間にあるギザギザの歯状線より下にある肛門上皮=皮膚は、肛門の内側の粘膜と違って、痛みを感じる神経が通っているので、強い痛みを感じることが多いです。出血は、トイレットペーパーに少しつく程度、もしくは便器にポタポタと落ちることもありますが、大量出血が起こることはほとんどありません。

 

切れ痔(裂肛)の原因

切れ痔(裂肛)の原因として一番多いのは便秘。便秘になるということは、便が腸に留まる時間が長くなり、留まっている間に水分が吸収されて便は硬くなってしまう。硬くなった便が無理やり肛門を通る際に、皮膚(肛門上皮)が裂けてしまって切れ痔になるというわけです。切れ痔になると、強い痛みを感じることから無意識に排便を我慢するようになって、さらに便秘になり、便秘になるから便は硬くなり、肛門を傷つける、、、といったように負のスパイラルに陥っていき、悪化して治りにくくなることも少なくありません。

一方で便秘ではなく、下痢が原因で切れ痔になることもあります。水分が多い下痢が勢いよく肛門から出ていく時に皮膚(肛門上皮)を傷つけてしまうのです。

 

切れ痔(裂肛)が慢性化すると

切れ痔(裂肛)は、初めのうちの傷が浅く、できたばかりの状態であれば、ほとんどの場合、軟膏や飲み薬などで治ります。何度も繰り返しして慢性化すると、切れ痔(裂肛)の傷が深くなって潰瘍(かいよう)と呼ばれる状態になり、肛門の内側には「肛門ポリープ」、肛門の外側には「見張りいぼ」と呼ばれるいぼ痔のようなものができてしまいます。この状態になると、お薬で改善が見られない場合には手術を検討します。

また、慢性化した切れ痔(裂肛)を放置すると、傷が深くなり肛門上皮の下にある肛門括約筋にまで及び、肛門が伸び縮みしにくくなる「肛門狭窄」になることがあります。肛門が開きにくくなるので、便秘はさらに悪化し、切れ痔(裂肛)もできやすくなって悪循環に陥ってしまうため、手術よって狭くなった肛門を元に戻す必要がでてきます。

 

痔ろうとは

痔の中でも、いぼ痔や切れ痔と違って、少し耳慣れないかもしれませんね。「あな痔」とも呼ばれる「痔ろう」は、直腸と肛門周囲の皮膚がトンネルのように繋がってしまった状態。「肛門周囲潰瘍(こうもんしゅういかいよう)」という肛門周囲に膿がたまる状態が慢性化して、その膿が皮膚を通って排出される通路ができてしまって痔ろうになるケースが多いとされています。主な症状としては、排便とは関係なく肛門周囲が腫れてズキズキと痛む、発熱(38~39℃)、おしりから膿がでることもあります。

 

痔ろうの原因

痔ろうの主な原因としては下痢が挙げられます。直腸粘膜と肛門上皮の境目にある歯状線には肛門陰窩(こうもんいんか)というくぼみがあり、そのくぼみに「肛門腺」という粘液を出す腺があるのですが、通常では入り込むことがない便も下痢で水っぽくなっていると「肛門腺」に入りやすくなり、細菌が入り込んでしまい、感染を起こして化膿して肛門周囲潰瘍になるのです。肛門周囲潰瘍がすべて痔ろうになるわけではありませんが、痔ろうになると自然治癒する可能性は低いですし、悪性度の高い「痔ろうがん」になることもあるので、肛門周囲潰瘍の段階で早期治療を行うことが大切です。痔については、たくさん市販薬があるので自己判断で使用しがちですが、痔ろうに関しては薬ではなく、切開して膿を出したり、瘻管(ろうかん)の切除する手術が必要となりますので、専門医を受診して検査を行いましょう。

また、クローン病を患っている方は、痔ろうを引き起こす可能性があるので注意しましょう。

 

痔の予防~おしりへの負担を減らしましょう~

前回と今回で、痔の三大疾患(いぼ痔・切れ痔・痔ろう)についてお話しましたが、いずれも痔になる前の予防が大切です。便通を整えるための生活習慣を身につけ、おしりへの負担をかけないようにしましょう。

正しいトイレ習慣

  • 便意があったら我慢せずに早めにトイレに行く
  • トイレでの排便時に強くいきまない
  • 排便後はおしりを清潔に
  • トイレの時間は3分程度

特に最近増えているのが、スマートフォンをトイレに持ち込んでの「ながらトイレ習慣」。痔になっている人の多くは、肛門が座面より下になる便器に座っている時間が長いので、おしりがうっ血したり、無意識にいきんでしまうことでおしりに負担をかけています。ある意味現代病でしょうか、であれば逆にスマートフォンを利用してタイマーをセットしておくと良いのかもしれません。

また、排便後は細菌に感染して炎症を起こさないようシャワートイレを使用するのは効果的ですが、洗浄の刺激で便意を促していると自然な便意を感じなくなったり、洗いすぎによって肛門の皮膚の皮脂が脱落し炎症を起こして肛門に痒みがでたりするケースが増えています。適度に使用しましょう。

 

水分を十分に摂る

水分を十分に摂ることで、便の量を増やし、柔らかくすることができます(おしりにやさしいお通じのかたさは歯磨き粉くらいと言われています)。

起床時には1杯のお水を飲みましょう。寝ている間に失われた水分の補給と、まだ動いていない腸を目覚めさせることになり、自然な便意に繋がります。1日に2リットルの水を飲むことを心がけましょう。コーヒーや紅茶などのカフェインやアルコールは、脱水症状を引き起こすので、控えめに。

 

良い便のためにバランスの良い食事を!

便秘や下痢を防ぐためには、腸内環境を整えることが大事。善玉菌を含む乳酸菌、善玉菌の餌となるオリゴ糖や食物繊維を摂取しましょう。食物繊維は水に溶ける水溶性繊維と水に溶けない不溶性食物繊維のどちらもバランス良く取ることがポイントです。

水溶性食物繊維:腸内で水に溶け、腸内の善玉菌のエサとなり、便秘や下痢を防止する役割があります。
(オートミール、りんご、バナナ、オクラ、インゲン豆など)

不溶性食物繊維:腸内で水分を吸収し膨らむことで腸内の排便を促進します。
(玄米、全粒穀物、キャベツ、にんじん、きのこ類など)

アルコール類、塩辛いものや香辛料などの刺激物は腸粘膜や肛門にも刺激になりますし、下痢や血行不良の原因になるので摂り過ぎないように。

 

適度な運動を心がける

運動不足による体力低下・筋力低下でも便秘になります。運動することで、腸の運動を促進し、便通を改善しましょう。ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を継続的に行うことで、血行が促進され、お通じをよくすることができます。

 

お尻には座りっぱなしも立ちっぱなしも負担

長時間の座り仕事や立ち仕事の場合は、定期的に休憩を取り、血行を促進するために軽く運動をするように心がけましょう。

 

シャワーだけでなくお風呂につかる

38~40度くらいのぬるめのお湯にゆっくりとつかって、身体を温めてお尻の血行を促しましょう。お尻を清潔に保つことにもなりますし、心身ともにリラックス効果も得られ、ストレス解消に繋がります。

 

ストレスは万病のもと

ストレスによる自律神経の乱れは血流の悪化や、便秘や下痢を招きます。またストレスが免疫力低下につながり、炎症を起こしやすくなるので痔には良くありません。もちろん、免疫力低下はさまざまな病気を引き起こすことになります。ストレス社会と言われる現代において、原因を把握し、ストレスを溜めないようにすることが大切です。

 

当院の肛門外来診療時間:土曜日9:00~12:00(祝日を除く)

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