歩く肺炎「マイコプラズマ肺炎」

昨年末に韓国や中国で急増していると話題になったマイコプラズマ肺炎。マイコプラズマ肺炎は、感染から発症まで2~3週間と潜伏期間が長いことや、症状が軽いと気づかずに出歩くことで人にうつしてしまうことから「歩く肺炎」と呼ばれています。令和5年5月8日に新型コロナウイルスが「5類感染症」になってから、もうすぐ1年。現在日本でもマイコプラズマ、インフルエンザやRSウイルスなどさまざまな呼吸器感染症が発生しています。 コロナ禍で人流を制限する対策をとったことで、細菌やウイルスに対する免疫力が低下したことが原因ではないかと言われています。

 

マイコプラズマ肺炎とは

マイコプラズマ肺炎とは、マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae )という自己増殖が可能な最小の微生物によって引き起こされる肺炎です。マイコプラズマは生物学的には細菌に分類されるのですが、肺炎球菌のような他の細菌で起こる肺炎と区別する意味で「非定型肺炎、異形肺炎」などと呼ばれることがあります。4年ごとに流行を繰り返すので「オリンピック肺炎」や「五輪病」とも呼ばれていました。当時、集団免疫が持続している期間が約4年だったのだと考えられます。2000年以降は、マクロライド系抗菌薬の登場により、治療で十分な除菌ができるようになって大きな流行はみられなくなっていました。ところが、再び2011年頃に症例が急増。マクロライド耐性株のマイコプラズマ肺炎が出現したと考えられています。

現在、秋~冬にかけて増加する傾向にありますが1年を通じてみられ、患者の約80%は14歳以下ですが、大人の場合でも比較的若年層に多くみられます。

 

マイコプラズマ肺炎の感染

感染する経路は、風邪と同じように、発症した人の咳やくしゃみで飛散した病原体を吸い込む(飛沫感染)、病原体が付着した手で目や鼻や口等の粘膜を触る(接触感染)です。

感染力は強くはないですが、保育園や学校、家庭内など接触が長い集団生活の場で感染が拡大します。また冒頭の「歩く肺炎」とよばれるように、潜伏期間が2~3週間と長いこと、発症しても症状が軽い場合もあり、罹患している本人も気がつかないうちに感染を広げてしまうこともあります。

 

マイコプラズマ肺炎の症状

2~3週間の長い潜伏期間を経て発症すると、風邪の初期症状に似た発熱、頭痛、全身の倦怠感(だるさ)などが現れます。咳は数日遅れて始まることもあり、熱が下がった後も3~4週間としつこい咳が続くのが特徴です。普通の肺炎とは違い気管支や肺胞の外部にある間質という組織で炎症を起こすため、聴診器で音を聞いても異常がなく、診断が難しいこともあります。長引いて重症化すると、気管支や肺胞にも炎症が広がり、痰が絡むようなゼロゼロという感じの音が聞こえるようになります。

特徴

  • 鼻水、鼻づまりの症状が少ない
  • 痰のない乾いた咳
  • 耳に入ると中耳炎
  • 胃や腸に入ると嘔吐下痢

 

◆ 合併症

中耳炎、無菌性髄膜炎、脳炎、肝炎、膵炎、溶血性貧血、心筋炎、関節炎、ギラン・バレー症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群など、さまざまな病変を起こすことがあります。

 

◆ マイコプラズマ肺炎の診断

マイコプラズマ肺炎の場合、咳はあるが元気そうにしており、全身状態は悪くなく普段通りに学校にも通っているケースでも、レントゲン検査をすると、肺に真っ白な影がありマイコプラズマ肺炎だと判明することも多くみられます。乳幼児~比較的若年の成人で咳が長引いていること、血液検査で(通常体内に病原体が侵入して炎症が起きていると増加する)白血球が増えないこと、胸部レントゲン検査で両方の肺に影が見えることが特徴です。

周囲の感染者の有無等を含む問診、呼吸音の聴診、胸部レントゲン、血液検査を行います。診断検査として、PA法(血清抗体検査)やLAMP法(遺伝子増幅検査)等がありますが、専用機器や高度な検査手技を要し、または見極めるまでに時間がかかるためあまり実用的ではありません。現在はマイコプラズマ抗原の迅速検査キットが保険適応となり、咽頭拭い液から迅速に評価する方法が多く用いられています。

 

◆ マイコプラズマ肺炎の治療

マイコプラズマ肺炎の治療は、抗菌薬による薬物療法を行います。マイコプラズマ肺炎には、普通の肺炎や中耳炎に対して処方されることの多いペニシリン系やセフェム系の抗菌薬は効きません。マイコプラズマを死滅させるには、マクロライド系抗菌薬が有効です。ただ、2000年以降マクロライド系抗菌薬が効かないマクロライド耐性マイコプラズマ肺炎も増えてきているため、マクロライド系抗菌薬で改善がみられない場合は、ニューキノロン系・テトラサイクリン系の抗菌薬を用います。注意点として小児の場合、歯の着色などの副作用や骨の形成に影響ある危険性があるため、8歳未満の子どもにテトラサイクリン系抗菌薬は原則使用しません。

その他、咳止めや解熱剤などの症状緩和のための薬物療法、呼吸困難や脱水症状がある場合には酸素投与や点滴が必要なため入院治療となるケースもあります。

 

◆ マイコプラズマ肺炎の予防

現在のところ、マイコプラズマ肺炎を予防するワクチンはありません。また、コロナ禍でしばらく流行がなかったため、マイコプラズマに対する免疫力は低下していると考えられますので、手洗い・うがいなどの基本的な感染対策を引き続き行いましょう。感染が疑われる時は、医療機関を受診し、登園・登校・出勤は控え、家庭内でも家族への感染対策としてマスクを活用したり、寝室は分けたりして接触を避けて感染拡大を防ぐことが大事です。マイコプラズマ肺炎は、一度風邪と診断されても、実はマイコプラズマ肺炎だったというケースもあります。ひどい咳が続く、息苦しい等の症状がある場合には再度医療機関の受診をお勧めします。

 

夜間や困った時の相談先

・こども医療電話相談 

全国共通の電話番号「#8000」にかけると、夜間や休日の医療機関受診相談ができます。
受付時間は都道府県によって違うのであらかじめ確認が必要です。

 

・ONLINE-QQこども救急

http://kodomo-qq.jp/

日本小児科学会運営の「こどもの救急」のホームページ。
せきや発熱など当てはまる症状を選択すると対処法が表示されます。

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