「食中毒」と聞くと、下痢や腹痛、発熱、吐き気など、お腹を中心とした症状を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
食中毒は、細菌やウイルスなどが付着した食品を食べることで起こり、誰にでも起こる可能性があります。
多くは下痢や腹痛などの症状が治まると回復しますが、なかには食中毒の後、数週間たってから別の症状が現れることがあります。
その一つが、手足に力が入りにくくなったり、歩くことが難しくなったりする「ギラン・バレー症候群」です。
「食中毒と手足の症状に、どんな関係があるの?」と疑問に思われるかもしれません。
そこで今回は、食中毒をきっかけに発症することがある「ギラン・バレー症候群」について、どのような病気なのか、なぜ食中毒と関係するのか、どのような症状に注意すればよいのかをわかりやすく解説します。
食中毒から、なぜ神経の症状が起こるの?
ギラン・バレー症候群は、細菌やウイルスなどの感染をきっかけとして、免疫の仕組みが誤って自分の末梢神経を攻撃してしまうことで起こる病気です。
本来、免疫には、体内に侵入した細菌やウイルスなどを排除する役割があります。しかし、感染をきっかけに免疫反応が起こる過程で、誤って自分の末梢神経を攻撃してしまうことがあります。その結果、神経の働きが障害され、手足のしびれや筋力の低下などの症状が現れます。つまり、食中毒そのものが直接、神経を傷つけているわけではなく、感染をきっかけに起こった免疫反応によって、神経に影響が及ぶことがあるのです。
ギラン・バレー症候群を引き起こすきっかけとして、さまざまな感染症が知られていますが、特に関連が知られているのが、食中毒の原因となる「カンピロバクター」です。
カンピロバクターは、鶏肉などに付着していることがある細菌で、加熱が不十分な鶏肉を食べることなどによって感染し、下痢、腹痛、発熱、吐き気などの症状が現れます。多くの場合は1週間ほどで回復しますが、感染から1~3週間ほど経った後に、手足に力が入りにくい、歩きにくい、手足がしびれるといった症状が現れ、ギラン・バレー症候群と診断されることがあります。
ただし、カンピロバクター感染症にかかったからといって、必ずギラン・バレー症候群を発症するわけではありません。ギラン・バレー症候群自体もまれな病気で、国内では年間約2,000人程度の発症があると推定されています。
「寝たきり」になることもある?

ギラン・バレー症候群では、手足の力が入りにくくなる「筋力低下」が、数日から数週間のうちに進行することがあるのが特徴で
初期には、
- 階段が上りにくい
- 歩くとふらつく
- つまずくことが増えた
- 箸やペンが持ちにくい
といった、ちょっとした変化として現れることがあります。
しかし、症状が進行すると、自力で歩くことが難しくなったり、立ち上がったり、体を起こしたりすることも困難になる場合があります。
さらに重症になると、手足だけでなく、呼吸に必要な筋肉や食べ物を飲み込むための筋肉にも影響が及び、自力で歩いたり体を起こしたりすることが難しくなるなど、一時的に「寝たきり」に近い状態となり、呼吸管理などのために入院が必要になることもあります。
ただし、これはすべての患者さんに起こるわけではありません。症状の程度には個人差があり、軽症で済む場合もあります。
大切なのは、「食中毒の後だから体力が落ちているのだろう」と考えて様子を見すぎないこと。
手足の力が入りにくい、歩きにくいといった症状が進行している場合は、自己判断せず早めに医療機関を受診することが大切です。
なぜ「数週間後」に症状が出るの?
「食中毒の症状は治ったのに、なぜ数週間たってから手足に症状が出るの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
その理由には、感染に対する免疫反応が関係しています。
先に述べたように、ギラン・バレー症候群は、感染をきっかけに起こった免疫反応が、誤って自分自身の末梢神経に影響を及ぼすことで起こる病気です。
この反応は、感染した直後にすぐ起こるわけではなく、神経に影響が及ぶまでには一定の時間がかかるため、食中毒の症状が出ている最中ではなく、症状が治まってから数週間後に手足の症状が現れることがあると考えられています。
つまり、「食中毒が治った後に、突然まったく別の症状が出てきた」というよりも、感染をきっかけに起こった免疫反応によって、時間をおいてから神経症状が現れることがあると考えると分かりやすいでしょう。
この時間差を知っておくことで、食中毒の症状が治まった後に手足の異変が現れた場合にも、「食中毒とは関係ないだろう」と見過ごさず、医療機関に相談するきっかけになります。
そもそも、カンピロバクター食中毒を防ぐには?

ギラン・バレー症候群を防ぐためにも、まずは原因となる感染症を予防することが大切です。
カンピロバクター食中毒は、生または加熱が不十分な鶏肉を食べることで起こるケースが多く、鶏レバー、鶏肉のたたき、鶏わさ、生焼けの焼き鳥などには注意が必要です。
予防のポイントは、
- 鶏肉は中心部までしっかり加熱する
- 生や半生の鶏肉を食べない
- 鶏肉を扱った後は手を十分に洗う
- 生の鶏肉に使用した包丁やまな板などを、他の食品に使い回さない
などです。
カンピロバクターは通常の加熱調理で死滅するため、「新鮮だから生でも大丈夫」と考えず、十分に加熱することが重要です。
「食中毒はお腹だけ」と思わないこと
食中毒の多くは、下痢や腹痛などの消化器症状を中心に回復していきます。
しかし、カンピロバクター感染症のあとには、まれにギラン・バレー症候群のような神経の病気が起こることがあります。
「食中毒は治ったはずなのに、手足に力が入らない、歩きにくい」
そんな変化があったときには、単なる体調不良だと決めつけないことが大切です。
現在の症状だけでなく、「いつ頃、どのような食中毒症状があったか」「その後、いつから症状が出てきたか」など、これまでの経過も含めて医療機関に相談しましょう。








